【ネタバレあり】ウロボロスの円環を断ち切ることはできるのか【プリデスティネーション】
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ネタバレを大いに含んだ考察的なものを書いてみようと思う。観ていない方は、ここで引き返し、是非とも作品を楽しんでいただきたい。
ラストのジョンはどうなるのか?
不完全な爆弾魔を殺したジョンは果たしてどうなるのか?
「お前が俺を撃てば、お前は俺になる」
不完全な爆弾魔が言っていた通り、ジョンは、不完全な爆弾魔になるだろう。しかし倒すべき、憎むべき相手になろうと思うだろうか。お前にはならない。その決意の表れが、不完全な爆弾魔の殺害のはずだ。
ところが、ジョンは最後にこう締めくくる。
「お前がひどく恋しい」
ジョンはジェーンに思いを馳せる。そして気がつくのだ。
自分が不完全な爆弾魔にならないと、ジェーン(自分)が産まれないという事を。
彼女は産まれ続け、彼は死に続ける
この作品はタイムパラドックスものと言われているが、厳密には少し異なるように思える。
タイムパラドックスといえば、親殺しのパラドックスが有名だ。
自分が産まれる前の過去にタイムスリップして、自分の両親を殺害したとする。すると自分が産まれなくなる。しかし産まれなければ、自分が過去にタイムスリップして両親を殺害する事はできなくなる。
となると自分はやっぱり産まれてくる。となると自分が過去にタイムスリップして殺害する事が可能になり、、、、と矛盾が起こり続けてしまう事を言う。
しかしジェーン(自分)とジョン(自分)が結ばれてジェーン(自分)が産まれてしまう現象は、卵が先か、鶏が先かという因果性のジレンマは抱えつつも、タイムパラドックスという点については起こしていないように私は思うのだ。
親殺しのパラドックスは、親を殺す事で矛盾が生まれるが、今作では不完全な爆弾魔という自分を殺す事で、ウロボロスの円環という名の無限ループが完成する。
ある意味で、矛盾する事なくジェーンは産まれ続け、ジョンは死に続ける事になるのだ。
機関はなぜ不完全な爆弾魔を放置するのか?
機関は、ジョンが不完全な爆弾魔である事を最初から知っていたと考えられる。
ジョンに最後に渡されたタイムマシンは偶発的なエラーではなく、彼を不完全な爆弾魔として活動できるように提供したもので間違いないだろう。
殺される前の不完全な爆弾魔は言う。
「俺達はな、操り人形なんだ。ロバートソンが仕組んだ計画の一部に過ぎない。」
機関は、不完全な爆弾魔を阻止したいのではなく、しっかりと爆弾魔として活動し、その後過去の自分に殺されてもらう必要があったという事になる。
不完全な爆弾魔という存在が、機関を大きく成長させたというセリフもあった。不完全な爆弾魔が自分の犯行を正当化したように、爆弾魔による犠牲以上の、大きな成果を機関が得る上で、爆弾魔そのものの存在が必要だったのかもしれない。
あるいはこの、ウロボロスの円環に綻びが生まれると、時間軸にとんでもない問題が発生するのかもしれない。
「この鎖を断ち切りたいなら、俺を殺しても駄目だ。」
不完全な爆弾魔は、精神を病みつつも、ウロボロスの円環をどうすれば断ち切る事ができるかを理解していた。理解はしていたが、残念な事に過去の自分を説得する事はできなかった。
ところで、1万人以上が殺されるという爆弾魔最大の犯行。その前日に爆弾魔は自分に殺されたわけだが、となるとその犯行は爆弾魔として初めての犯行という事になるのだろうか。
ただタイムマシンがあるので、犯行のタイミングは時系列的に異なるのかもしれないが。
作品の冒頭で、日付は「1975年3月、日にちはその都度違う」とある。
自分で自分を愛し、自分で自分を殺す、この無限ループには、もしかしたら揺らぎがあって、いつか大きな変化が生まれるのかもしれない。